宇宙をめざしてNASDA

宇宙飛行士の健康を守る航空宇宙医師
フライトサージャンって
どんな仕事?




 

 宇宙開発事業団(NASDA)の宇宙医学研究開発室では、おもに宇宙飛行士の健康管理を行いながら、宇宙環境が人間の身体に与えるいろいろな変化や影響に対して、医学的にどう対処したらよいかも研究している。
 宇宙飛行士としてよりよい仕事をするためには、健康であることが大切だ。その健康を守ることが宇宙医学研究開発室の大事な仕事だ。
 なかでも、フライト中にNASAのミッションコントロールセンターで宇宙飛行士の健康状態をモニターしながら医師として宇宙飛行をサポートしているのが、フライトサージャン(FS)だ。

フライトサージャン(FS)の
仕事


 宇宙に行くと、人間の身体にはいろいろな変化が起こる。無重力の宇宙では、地球と比べて力を使わないから筋肉が衰えてしまうし、骨のカルシウムが体内に溶け出して、骨折しやすくなる。宇宙放射線も身体にどのくらい影響を与えるか、よくわかっていない。
 また、宇宙では空気が外にもれないように密閉されたところで生活するので、地球とは違ったストレスを感じるようになり、それが原因でトラブルが起こるかもしれないと言われている。
 FSは、人間が宇宙でも健康で安全に生活できるようにするための宇宙医学の専門家だ。
 宇宙飛行士の健康な生活をサポートするFSは医学の知識はもちろん、航空や宇宙、科学などさまざまな分野の勉強をする必要があるんだ。
 たくさんのFSが働いているアメリカでは、医師の免許を得てからさらにFSになるための勉強をして、FSの資格を取っているんだ。NASDAのFSも、アメリカでNASAのFSと同じように専門の訓練を受けている。
 そして日本人の宇宙飛行士がフライトするときには、NASAのFSと協力して、フライト中の宇宙飛行士の健康管理を行っているんだ。


国際宇宙ステーション(ISS)
でのFSの役割


 これまでの日本人の宇宙飛行は短期間のものだった。だけど、ISSのミッションでは3〜6か月の長期間にわたって、アメリカ、ロシア、ヨーロッパ、カナダ、日本の宇宙飛行士がさまざまな実験や作業をしながらいっしょに生活することになる。
 閉鎖されたところでいろいろな国の人が共同生活するので、宇宙飛行士には大きなストレスかかる。ストレスがひどくなると病気になってしまうこともある。また、ISS滞在中にケガをすることも考えられる。
 ISSでは医療設備も限られているし滞在している宇宙飛行士の中に必ず医師がいるというわけではない。そのため地上のミッションコントロールセンターにいるFSが、ISSの宇宙飛行士の様子をモニターしながら指示を出す。宇宙飛行士が健康で確実に作業ができるようにサポートすることが大切なんだ。
 また、各宇宙機関が個別に宇宙飛行士の健康管理を行うと混乱してしまう。そこで現在、各宇宙機関の宇宙医学の専門家がチームをつくり、協力して宇宙飛行士の健康管理をするための準備をしたり、ISSでのさまざまな場面に対応できるように協力しているんだ。
 ISSの組み立てが進むと、宇宙飛行士の健康管理はNASAのジョンソン宇宙センターで、まとめて行われるようになる。ISSの日本の実験モジュール「きぼう」は筑波宇宙センターでコントロールされるけれど、日本人宇宙飛行士がISSに搭乗しているときにはNASDAのFSがジョンソン宇宙センターへ行って、ほかの宇宙機関のISS・FSと協力してクルーの健康管理を行うことになるんだ。


これからの宇宙医学とFSの仕事

 スペースシャトルやミールでの経験から、短期のフライトの後には、人間の身体はすぐに元に戻ると言われている。でも、長い期間宇宙に滞在して地球に帰還した後に身体にどんな影響や変化があるのか、元の身体に戻ることができるのか、宇宙飛行士を引退した後も健康に暮らしていけるのかなど、まだわかってないないことがたくさんある。
 それを知るためには宇宙飛行士の健康状態の追跡調査を行い、宇宙飛行士と宇宙に行かなかった人を比べて、将来にわたって身体にどんな影響があるのかを調べていく必要があるんだ。
 こうした研究を積み重ねて、人間が宇宙で暮らせるように、宇宙で安全に快適に過ごすことができるように、いろいろな医学上の問題を解決していくことも、FSの仕事なんだ。

NASDAのフライトサージャンにインタビュー

KC-135ジェット機で行われた無重力の体感訓練。無重力で、点滴などの医学処置の体験をする。

1、フライトサージャンになるにはどうしたらいいんだろう?
 まずは、医学の勉強をして専門医になり、医師としての経験をつむ。医学博士号を取るぐらい、勉強したほうがいい。FSは医学だけでなく、さまざまな科学分野の知識も必要になるから、できれば、医学以外の科学の勉強をしておくと、もっといい。
 FSになるためには、アメリカの医学校やNASAで宇宙医学の研修を受けることになるから、英語は絶対に必要だ。さらに、ロシア語も勉強しておくと、宇宙関係の仕事につくには有利だ。


2、日本宇宙飛行士のフライトのないときには、どんな仕事をしているのだろう?
 2003年に予定されている日本の実験モジュール「きぼう」の打ち上げに向けての準備作業や、宇宙飛行士の行う運用実験や訓練に立ち会い、宇宙飛行士に危険がないかチェックしている。
 また、宇宙飛行士を選ぶときには、医学検査をしたり、現在訓練中の3人の宇宙飛行士候補者の訓練をサポートするために海外での訓練に同行したり、とても忙しいんだ。

NASDAのFS嶋田和人さん。1997年11月STS-87ミッションのときには、FSとしてジョンソン宇宙センター(ヒューストン)のミッションコントロールセンターで土井隆雄宇宙飛行士をサポートした。

2000年1月にロシアのモスクワ郊外で行われた、陸上サバイバル訓練に同行。写真は訓練中の宇宙飛行士候補者。


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