FAI-CIMP(医学生理学委員会) 2002年会合
At Larnaka, Cyprus; 8-9 June 2002
agenda ; report from Japan ; minutes ; CAMA letter to FAA ; UK view on LSST-M 1 2 ; UK physical exam system 1 2 3
日本航空協会御中
FAI医学生理学委員会(CIMP)2002報告
2002年6月20日
嶋田 和人
6月8日・9日にキプロスのラルナカ市で開催されたFAIの医学生理学委員会(FAI CIMP)に日本航空協会依詫の委員(日本滑空協会推薦)として嶋田(日本滑空協会・日本グライダークラブ所属)が参加した。以下に参加報告を記す。
1.会合の概要
CIMPの会合は年1回ヨーロッパで開催されている。毎回およそ20国の医師委員が参加し、FAIの技術委員会としてスカイスポーツの航空医学・ヒューマンファク夕一面から安全向上のための方策について論議し、またJAAなどの航空身体検査機関へ調整を働きかけている。http://www.fai.org/medical/
今回の参加国は19ヶ国21名であった。http://www.fai.org/directory/delegates.asp?id=13
ロシアからNational Aero Clubの会長が通訳を兼ねて出席した他、ポーランドがオブザーバーを一名派遣してきていた。現在のCIMP委員長はスペイン人でIGC委員を兼務しているDr. Pedro Ortizである。スウェーデン及びキプロス委員はそれぞれの国のGA委員会委員を兼務している。クロアチア委員は初の参加であった。クロアチアは過去に代表を送ったことはないと思われる。スウェーデン委員は代表の交替により初の参加であった。前委員の医師は熱気球種目の競技者でもありWAGで36位を記録している。
前委員長により前回議事録の提示があり承認された。http://www.fai.org/medical/meetings/#2001
2.World
Air Gamesの結果について
昨年の第二回ワールドエアゲームについて開催地のスペイン委員より報告があった。この大会では日本選手が熱気球とパラシューティングで活躍しメダルを5ケ獲得する成果をあげている。http://www.fai.org/wag/
しかし開催の点から見ると、飛行機曲技とCIMPが主催した第一回スカイスポーツ医学シンポジウム以外の競技・イベント運営の評判は悪く財政的にも失敗であったとのことである。国内では政治家の公約が守られず問題になっているという。このために2005年にWAGが現在立候補を表明しているスロベニアで開催される見込みは薄い。(参考としてスロベニアの人口は120万人ほどであり、サッカーのワールドカップにも参加しているが日本では政令指定都市程度の人口規模である。)
前委員長のスイス委員よりWAG2001の際に開催された第一回エアスポーツ医学シンポジウムの報告が印刷資料にて行われた。http://airsports.fai.org/jul2001/jul200010.html
次回第二回のスカイスポーツ医学シンポジウムはWAGと同時に行う計画を昨年策定したが、当面はWAG開催をあてにせず、2005年のFAI設立100周年に合わせて開催の方向で検討することとなった。
3.討論内容要旨
(CIMPの広報と他技術委員会との連携)CIMPは身体に問題があると飛行を止めるための論議をする所という誤った印象が一部にある。実際にはCIMPは競技者の心理面を含めた医学的支援を推進するための委員会であるという認識を広めるためにも他のFAI技術委員会との情報疎通を促進してゆくことが決議された。
(高齢のスカイスポーツ愛好者の問題)例として英国では100歳超のパイロットが20名程いる。何時まで飛行して良いのかについてデータを収集しなくてはならない。英国では飛行を禁止するものではないがBGA(British Gliding Association)にては70歳以上について考慮を促す規則があることが英国代表(BGA所属)により説明された。各地域の工アラインの規定については60歳は若すぎ、63から65あたりが適当な基準になるのではないかという論議が行われた。日本はエアラインで63歳までの乗務を初めて許した地域であり、そのデータは世界の航空医学界に貢献するものになりつつあることを嶋田が紹介した。日本は最長寿命国であるためこの観点からの調査活動が期待されている。(参考:日本とスペインは魚摂取量が多いそうである)
(FAAの新制度提案)FAAのライトスポーツライセンス提案(身体検査証明は運転免許で可)には反対コメントがあり次のステップヘは半年は必要ではないかと米委員(元パンナム医師)より説明があった。
(LSST-M[旧JAA-FCL]ヨーロッパ身体検査基準)
英国委員より印刷資料を用いて問題点が指摘された。
その他にも身体検査制度を中心に各種技術討論が行われた。
4.ドーピングへの対処について
FAIではドーピング対応についてIOCに準拠すると定めており、これからFAI及びCIMPの大きな担務項目となる。http://www.fai.org/medical/nodoping.asp
まずキプロスでの全種スポーツ薬物規制についてキプロスのアンチドーピング委員長Popi Kanari, Ph.D.より非常に良いプレゼンテーションがあった。彼女は政府派遣で米FBIなどでも研鑚を積んだとのこと。
I0C関連で1999年に設立されたWORLD ANTIDOPING AGENCYは本部をモントリオールに移したばかりとのこと。http://www.wada-ama.org/
スカイスポーツに於てもドーピングテストが必要な情勢があるとの報告があった。但し大会外での実施が直ちに必要だという情報は今のところない。軍の経験ではアンフェタミンは飛行には逆効果であり現在の所パイロットに有効な薬劑はないことが英国委員より提示された。但し売薬やサプリメントにまで気をつけないとドーピング検査が陽性に出ることがあるのでNACによりFAI競技大会への出場選手への注意が必要であるとの議論があった。
地中海地域ではギリシャ(次回オリンピックでドーピング検査体制が構築されている)での検査で1名分の薬物スクリーニングには2万円程、日数も2週間かかる。WADA(ホームページあり)の運営費は各国スポーツ団体が払っているとのこと。スカイスポーツ大会での検査費用はFAIが持つという話があったが多額であるので再確認を要す。[6月20日付けで大会外(練習時)のドーピング検査の費用も少数ではあるがWADAがコストを負担する、但しこれが陽性に出た場合にはその後のコストはFAIが負担することがスイス委員により確認された] ヨーロッパのEU参加国ではIOC準拠のドーピング検査の体制構築が終わっているはずということである。日本でも国際大会では薬物スクリーニングの体制を準備しなけねばならない。但し多数検査するような必要は予想されない。
5.各国の状況報告
日本について嶋田が印刷資料の内容に加え民間航空再開50周年、日本グライダークラブ設立50周年である旨を述べた。クロアチアは次回のFAI総会を本年10月にDubrovnikでホストする予定であり、web
siteが紹介された。http://www.caf.hr/dubrovnik.html
ポーランドの航空医学センターも設立50周年とのこと。
6.学術報告
嶋田は5月の米国Aerospace Medical Association meetingでAOPA-Japanより発表した、レジャー飛行でのオホーツク海へのディッチングについての発表を紹介した。http://www18.tok2.com/home/soar/english.htm
7.役員選挙
委員長を含む役員選挙では全員再選となった。委員長はスペイン委員(イベリア航空所属でスペインIGC委員のグライダーパイロット)Dr. Ortizの再選である。副委員長はフィンランド、キプロス、イタリア。セクレタリーが英国。前委員長のスイス委員が委員長とともにFAIへのCIMP代表。
8.要処置事項
・ ワーキンググループ(英国委員)で事故報告様式の作成、活動記録作成を行なう。
・ FAIホームページにある各国の各スカイスポーツの医学要求表を各委員からの情報により改訂する。http://www.fai.org/medical/medicals.asp
・ 各委員の略歴を事務局に提出。
9.次回開催予定
次回はFAI総令と重ならなければ2003年10月4・5日にICASM会合に揃えてマドリードで予定する。
日本航空協会の処置事項となるもの
以下に日本航空協会が行うべきと考えられる処置事項を挙げる。
1.
FAI競技大会のドーピング検査
ドーピング検査についてはFAIの規定であり、これを実行することがNACである日本航空協会の義務となる。熱気球・ハング/パラグライダーを中心にFAI国際競技会が国内で開催されているためこれらがまず対象である。尿検査は実施するとしても大会時に少数(例えば優勝者など)に実施すれば現状では十分と考えられるが、少なくとも参加選手への趣旨徹底は全FAI大会について必須と解釈されると考えられる。国内の対応だけでなく、日本選手が海外の大会でのドーピング検査で問題を抱えないような指導も必要である。WADAには日本国政府が各国政府分担の18%、150万ドルを支払っており、政府としては最大の支払い者である。http://www.wada-ama.org/asiakas/003/wada_english.nsf/Home?OpenPage
但し国内の規制事情により麻薬類の尿スクリーニングには標準比較検体入手の困難があるためJOCなどとの連携が必要であろう。
2.
スカイスポーツに必要な身体検査情報の提供
種別の表の作成・CIMPへの提供を要する。
3.
次回CIMP会合への代表派遣
次回は2003年10月4・5日にマドリードで開催の予定。
(以上)
(付)キプロスのスカイスポーツ事情
日本からのエアライン便はキプロスへは直行しないのでラルナカ国際空港へアテネ、フランクフルト、ロンドンなどから入る。首都はレフコシア(旧英名ニコシア)であり、ラルナカへは車で一時間かからない。今回はフランクフルト経由のルフトハンザであったが、往復ともフランクフルトでの待機が8時間ほどある上に現地発着が午前2時・3時と不便である。ロンドンで時間調整し昼間のキプロス・エアウェイズ(参加者によると良いらしい)を利用するのが良さそうである。ルフトハンザの深夜便は満席であった。これは日中にビジネス用途に資材を使い、夜間に低料金で観光客を運ぶためらしい。
ラルナカ空港には35機ほど小型飛行機が駐機していた。殆どは地元のものとのこと。キプロス委員のDr. Christofides(ギリシャ系)は飛行機のオーナーであるが、彼の属するレフコシアのクラブのメンバーの機体もラルナカに置いてあるとのこと。
キプロスの北部沿岸はトルコ支配区域である。元は全面的に英領であり、英軍の基地は現在も南のギリシャ地区にある。トルコの侵攻は現在ラルナカにあるモスクでのトルコ系住民に惨殺に端を発しているらしいが、これはギリシャ側のガイドの話には出てこない。
英国委員のDr. Sandby/BGAは1960年代にキプロスの英軍基地に駐在していたが、当時は北部の山岳にて12,000feetの雲底でソアリングを楽しんだそうである。現在は支配区域境界の関係で北の2,000m級の山岳は使用できない。レフコシアの空港も分断されたため滑走路が使用できずラルナカに新しく暫定空港を作ったのが今でも使われているそうである。
しかしCyprus Airsports Federationではスカイダイビングなどスカイスポーツのためにレフコシア近郊に2,000ft程度の滑走路を整備している最中であるという。人口規模を考えた時、1億人を超える国でこのようなスカイスポーツ専用の空港の整備が行われないのは不思議ということになる。
キプロスは地中海で3番目に大きな島であるためサルジニア島(AOPA-Japan世界一周で経由)と並び自家用飛行機で訪れて楽しむ場所として人気のようである。滞在コストも安い。訪問客に取っては政治的な不安定による問題は現在はない。「なぜ日本からの観光客が少ないのか、観光局がさぼっているのか。」と現地のパイロットと結婚したオーストラリアの女性に真剣に聞かれたが、東京のキプロス観光局は観光向けでは信じられない程質の良い地図も無料提供してくれる。「おそらく島の浜辺で楽しむというのはあまり日本人の関心を呼ばないのではないか」と答えたが、南太平洋ではそんなことはないようなのでエアラインの便のためか(フランクフルト空港では大勢の日本人観光団体がいた)、南ヨーロッパをGA機やヨットで回る人がいないためもあるのか??? 食事もおいしいのに。是非ご訪問の際はCyprus Airsports Federation eliassis@spidernet.com.cyへご連絡を。 □
FIFAのドーピングテスト例
日経6月記事